【特集・大学に通うとは】書評 『大学とマネー:経済と財政』 島一則 編集
大学に進学することは、経済的に見て「得」であるのか。「得」であるとしたら、それはなぜか。本書は、大学をめぐるマネーの流れや、大学が生み出す経済効果について、理論や研究論文を取り上げながら解説する。
教育経済学では、大学進学が経済的にどれだけ合理的であるかについて、大学教育を投資と捉えて検討する考え方がある。教育に必要な費用と生涯賃金から、投資の収益率を計算するのである。現代日本における大学教育の収益率を計算すると、一般的な銀行への預金の収益率よりも「得」であるという。
では、大学教育と経済効果の間には、どのようなつながりがあるのか。本書では、五つの大学の卒業生を対象とした調査の分析を紹介している。その結果によれば、卒業生の現在の知識能力のみが所得に影響し、大学時代の勉強に対する熱心さの度合いや卒業時の知識能力には、所得への直接的な効果がないのだという。しかし、それは「大学での勉強は役に立たない」ということを意味するわけではない。さらなる分析を行ったところ、大学時代に熱心に勉強した経験は卒業時の知識能力にプラスの影響を与え、卒業時の知識能力は現在の知識能力に強く影響し、所得の増加をもたらすことが分かった。同調査を行った矢野眞和氏は、大学時代の学習経験が間接的な経済効果をもたらすという「学び習慣」仮説を示している。
本書では他に、学生とその親の大学教育負担費や、政府による大学財政、大学の財務や経営に関しても論考を紹介している。教育経済学や教育社会学における基本的な理論から、奨学金の学生生活への影響や政府による大学への補助金などの身近なトピックまで、幅広い分野が解説されている。
大学や教育の効果について考えると、自身の経験や個人の教育観に基づいて考えてしまいがちだ。実証的な分析から導かれる結果は、新たな視点を与えてくれるかもしれない。