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【インタビュー】佐藤魁さんインタビュー 現場で継続できる仕組みへ

 佐藤魁さん(情報・博2)は、仙台市と連携し、食品衛生管理手法「HACCP(ハサップ)」を支援するウェブアプリの開発に取り組んだ。きっかけは、アルバイトをしていたタイ料理店の紙による煩雑な記録業務だった。開発段階では、単なる機能実装だけでなく、行政特有の制度的条件や現場での使いやすさとも向き合ったという。現在は大規模言語モデルの研究にも取り組む佐藤さんに、研究と社会実装の接点について聞いた。 (聞き手は小宮正希)


現場経験から始まったHACCPアプリ開発


 HACCPは、食品の製造・調理工程において、食中毒などの危害要因を分析し、重点的に管理する衛生管理手法だ。現在は原則として全ての食品事業者に導入が求められる。一方で、個人経営の飲食店では記録や管理の負担が大きく、導入が進みにくい側面もある。


 佐藤さんが勤務していた店舗でも、外部監査に備え、冷蔵庫の温度や衛生状態を毎日紙へ記録していた。キッチン内へ持ち込むため紙は汚れやすく、保管場所も限られていたことから、管理に手間が大きかった。こうした経験から、単なるデジタル化ではなく、現場で継続できる仕組みの必要性を感じていた。


使いやすい設計を重要視


 開発したアプリでは、手洗いや冷蔵庫の温度管理、原材料チェックなどの衛生管理項目を設定し、その内容に基づいて日々の記録を行うことができる。記録はクラウド上で管理され、従業員間で共有されるほか、仙台市側から各店舗へのお知らせ機能も備えている。


 しかし、佐藤さんが重視したのは多機能性ではなかった。今回のアプリ開発は、HACCP導入が遅れている個人経営の飲食店への普及を目的としており、無料で提供することで導入のハードルを下げる狙いがあった。そのため、「始めやすさ」と「使いやすさ」を最優先にしたと述べる。


 既存のHACCP管理アプリには多機能なものも存在するが、スマートフォン操作に慣れていない利用者には扱いづらい場合がある。そこで、機能を必要最低限に絞り、画面構成もシンプルに設計した。また、衛生管理計画については、手順書を基に初期設定を自動入力することで、入力作業の負担軽減も図った。


行政との連携


 一方で、社会実装の過程では、技術だけでは解決できない調整も必要だった。特に行政との連携では、個人情報管理や運用体制など、公共領域ならではの条件を踏まえながら開発を進めたという。


 仙台市では個人情報管理の観点から、メールアドレスをサーバー上に保存することができなかった。そのため、ユーザー管理はメールアドレス方式ではなく、ユーザー名方式へ変更する必要があった。また、市側がアプリストア用の決済手段を持たなかったことから、スマートフォン向けアプリではなく、ブラウザ上で動作するウェブアプリとして開発を進めた。

 開発後に仕様変更を求められる場面もあり、行政特有の条件を把握しきれていなかった部分には苦労したという。仙台市とは月に一度ほど打ち合わせを重ね、市の基準に適合しているか確認しながら開発を進めた。

開発における苦労

 また、実際の利用現場との距離感にも難しさを感じていた。佐藤さん自身には、HACCP導入が進んでいない事業者との直接的な接点が少なかったため、何が本当の課題なのか、どのような機能が求められているのかを具体化する作業には苦労したという。

 一方で、開発そのものでは人工知能(AI)技術の進展も実感した。今回の開発では、使用経験のないプログラミング言語が必要だったが、データ構造や画面遷移などの大まかな設計を除いたコーディング部分については、AIエージェントを活用することで想像以上に円滑に進めることができたと語る。

行政現場で感じたデジタル人材不足

 こうした開発経験を通じ、行政内部におけるデジタル人材の不足も実感したという。市役所ではデジタル分野の専門人材が十分ではないと聞いた。本来はチームで運用する規模のシステムでも、一人体制で担当している事例があるといい、技術者ポジションの必要性を感じたという。

 仙台市には、技術によって効率化できる業務がまだ数多く存在する一方で、現場では人手不足も深刻化している。佐藤さんは、現場側のニーズが人事や制度設計まで十分に届いていない印象を受けたと語る。

研究と現場のつながり

 今回の開発経験は、佐藤さん自身の研究観にもつながっている。現在は、大規模言語モデルの内部構造、特に「モデルが自分自身の知識をどう認識しているのか」というメタ知識形成の仕組みについて研究している。

 現在の言語モデルはブラックボックスとして扱われており、その内部を理解することで、安全かつ効率的な運用につなげたいと考えているという。最終的には、AIがもっともらしい誤情報を生成する「ハルシネーション」の原因解明にもつなげたいとしている。

 佐藤さんは、研究テーマを選ぶ際、どう社会の役に立つのかを重視しているという、特にAI分野では、エンジニアも論文を読みながら技術革新を追っており、研究と現場の距離は近いと感じている。試行錯誤しながら改善していく姿勢は、研究者だけでなく、現場の開発者にも共通して必要なものだと語る。

 最後に、社会実装に関心を持つ学生へ「十分にスキルが身に付いてから挑戦するのではなく、まずは飛び込んでみる姿勢が重要だ」と語った。佐藤さん自身もアプリ開発経験はなかったが、今回の募集へ思い切って応募したことで、実践の中で急速に知識や技術を身に付けることができたという。

 現場で感じた不便さから始まった今回の開発。その過程で、単なる技術力だけではなく、制度や運用、現場との認識の違いとも向き合う必要があった。佐藤さんの取り組みは、技術を社会の中で実装する難しさを示している。

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