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【著名人特別インタビュー】本学理学部卒 作家・円城塔さん


―東北大学へ進学した理由を教えてください
 北海道から出たかったというのが一番です。でも、東京は遠くて。地元の北海道にいると北大に行けと言われるので、何とか言い訳というか説明のつくようなところを探したら東北大学になりました。友達で天文学をやりたいというのがいて、一緒に北海道を出て東北大へ行こう、という話もしていました。 
 理学部を選んだのは、単純に物理が好きだったのと、なんとなくそれで食べていけそうな気がしたからです。その考えが間違いだとあとになってわかったのですが。

―東北大での思い出を教えてください
 大学時代は向山に住んでいました。基本的に一人でいたかったので、自分一人でいることが多かったです。北海道にいるとわからないのですが、日本はちゃんと四季があるな、なんてことを思ったことが印象に残っています。古川まで塾講師のバイトに行ったり、スクーターを買った後は八乙女の古本屋に通ったりしていましたね。 
 サークルはSF研に所属していましたが、SFの有名どころはそんなに読んでいませんでした。せいぜいアシモフくらい。僕は変な文章が好きだったので、もっぱらラテンアメリカ文学を読んでいました。活動も、話の合う人がいたので、ふらっと加わっておしゃべりしたり、勝手に集まったり。適当にラクガキなんかをしていたこともあります。

―その後の大学院生時代、研究者生活は現在の創作姿勢に影響しているのでしょうか
 当時の僕は東北大に変わったことをしている人が少ないと感じていて、東大に行ったら面白い人がいるのではと考えて院はそちらにいきました。役に立たない理論でも、他の人が思いついていないことをやりたかったのです。新しい宇宙の理論を考えたいだとか、虚構の世界を作っちゃえ、だとか。そういう姿勢は今でも変わっていないように思います。
 自然法則というのはどこか一つを崩すと全体に問題が起きる、でも何だかその仕組みはよくわからない。そこを学問的に落とし込めるかは人次第ですが、小説ならばわからない部分をホラで埋めてしまっていいのです。論文でウソはつけませんけれどね。

―作家としての自分をどのようにとらえていますか
 僕は作品を、「依頼を受けて納品する」イメージで作っています。締め切りと枚数が決まっていて、それに応じた「製品」として送り出すのです。言いかえるならば、満足が行かなくても手放せるかどうかということで、その意味で僕は芸術家タイプではないと思います。どちらが良い悪いという問題ではないですし、そうしないと食べていけないということもあります。

―小説を書く上での、円城さんの「ことば」に対する思いを教えてください
 僕の日本語は物理数学系の変な翻訳に近いですね。翻訳ものの日本語だから、言い回しが変。生まれながらの作家ではないんです。だから自分が翻訳をするのは、仕事としては出来なくて、趣味に近い。今、ハーン(小泉八雲)の小説を翻訳するということをやっています。彼の小説は何だか面白くて英語に日本語の単語がそのまま混じっている。ニンジャスレイヤー(*)のよう。とてもきれいな訳が出ているのですが、そうではない、より直訳した形で当時の英米の人が受け取ったような感覚を再現出来たらと思っています。
 言語というものは何か不思議で、何でその意味が相手に伝わっているかわからないし、物理現象としてもエネルギーの収支が全然わからない。でもこれがないとどうにもならない。考えていくといちばんおもしろいものなのです。

―最終的には、言語を作ってしまいたいという気持ちはあるのでしょうか
 そういう気持ちもありますが、よくわからないです。言語を作るベースがわからないし、固有名詞をどうしよう、とか。色々考えると先に進まなくなってしまいます。何か目的がないと言語は作れないので、じゃあプログラミング言語はどうかと考えてもいます。マニアの人は沢山いるので、それらを超えるものを作れそうなら考えます。まだアイデアはありませんけれど。

―最後に、東北大生へ向けてのメッセージをお願いします。
特に研究者志望の人に向けてということになりますが、食べられるように道を作っておくことが大事です。健康保険と年金を払ってしまうと手元に何も残らなくなることがあり、要注意です。人から借りるなりどうにか稼ぐなりする算段はつけておいた方が良いでしょう。
 院生の人は、博士号まで取ったのであれば仕事がないと嘆くのではなく、自分で新しい分野を開拓するくらいの気持ちを持ってほしいと思います。使われることばかり考えず、自分で会社を作ってみるくらいの気持ちで良いのではないでしょうか。 

(*)米国人作家二人による忍者小説。日本をモデルにした世界観と、独特の日本語訳でファンを惹きつけている。



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