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【書評】『震災編集者』 土方正志 河出書房新社

 被災地仙台で本を編む編集者が、東日本大震災後の5年間の軌跡を綴った一冊。筆者は、社員たった2人の仙台の小さな出版社「荒蝦夷(あらえみし)」代表の土方正志さん。土方さん自身も、震災により自宅マンションが全壊。事務所マンションも本棚が倒れ、資料や書類が散乱し、足の踏み場もない状態。余震が続く中、ガソリンをなんとか手に入れ、山形に一時避難し、再び本を作りはじめた。3月下旬、東北にゆかりのある作家に原稿を依頼すると、わずか10日あまりで原稿が集まる。被災地の作家が、被災地からの言葉を発信した『仙台学vol.11 被害日本大震災』は、4月26日に刊行した。




 『仙台学』に加えて、2011年夏からは、東北学院大の発行する『震災学』の編集を担当した。『仙台学』『震災学』を軸として、〈災い〉を記録し、未来に伝える仕事を続けていく。東北地方で、かつて強くたくましく生きた蝦夷さながらに、「荒蝦夷」は、未曽有の大災害にも屈せず、この5年間ずっと東北から本を送り続けた。

 全編にわたり、筆者は感情を抑制した、静かな文体で、震災後の5年間を書きとどめる。被災地では、生き残った人達の中にも、彼岸へ渡っていった人達の影が垣間見える。華やかな結婚式の場で、親族席に遺影が置かれている。亡くなった人が、幽霊として現れたという話がまことしやかに語られる。日常と非日常が交錯する被災地の現状を綴ったエピソードが、本書には散りばめられている。肉親や兄弟・仲間を地震や津波で失くした人たちの内に、命を失くした者たちの記憶は消えることはない。筆者は、本書の中で、生き残った人だけでなく、死者に向けても、メッセージを送っているのである。「鎮魂」と「祈り」の願いが本書には、確かに込められている。

 被災地から「本」を編む人の存在を知ることで、仙台の風景が今までと少し変わって見えるかもしれない。街角の本屋で、本を手に取り、家路へ向かうささやかな幸せがますます愛おしくなっていく一冊だ。

(文責:高橋)
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