【書評】『空飛ぶ広報室』 有川浩 幻冬舎
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人間にはどれほど力を持っても思い通りにならないものがある。山法師、賀茂川の水、双六の賽といったものは有名な例であるのだが、運命やめぐり合わせもそれに含まれるだろう。思いがけない幸運もあれば、信じられないほどに不運が重なることもある。
この物語の主人公、空井大祐は幼少の頃からの憧れであった航空機のパイロットになる。しかし、ある日突然交通事故に巻き込まれてパイロットの資格を剥奪されてしまう。夢を絶たれた空井は航空幕僚監部広報室に転属となり、記者から異動したばかりの女性ディレクター、稲葉と出会う。境遇の似た2人は数々の試練を経てそれぞれの生き方を見つけていく。
2人を取り巻く快活な登場人物たちや、展開の小気味良さも、本書の魅力の一つであろう。巻末の章「あの日の松島」では、主人公を通して震災後の松島基地が描かれ、当時の状況を垣間見ることができる。仙台から地理的に近い位置であるから、本章のイメージが容易な人は多いだろう。もちろん、松島基地を実際に訪れることも可能だ。
失敗と成功、挫折と栄光、酸いも甘いも噛み分けて人は生きていく。何でも順調にいかないからこそ、人生はドラマチックなものになり、人を感動させる題材となるのだろう。明日から前を向いて生きていこう、そう思える一冊だ。
(文責:木部)