【研究成果】単一元素での準結晶の立体化に成功
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本学多元物質科学研究所の蔡安邦教授らが単一元素からなる準結晶の三次元構造を作製することに成功した。これまで単一元素での準結晶は二次元平面までしか作製に成功しておらず、第二層以降を形成することに成功したのは世界で初めてである。
今回の研究対象である準結晶は結晶状態とアモルファス状態に次ぐ、固体の第三の状態であると言われている。結晶は原子が等間隔で並んでおり、適当な波長の光を照射すると回折像が得られる一方、アモルファスは原子の間隔が一定でないので回折像は得られない。準結晶は原子の間隔が等間隔でないが鮮明な回折像を示す。この回折像は準結晶が、通常の結晶では有り得ない五回軸(72°回転させると回転前と重なるような回転軸)を持つことを示す。二次元平面が正五角形のみで埋め尽くせないことと同じように、三次元空間を五回軸対称な単一単位格子で埋め尽くすことは不可能であることが数学的に証明されている。これまでの研究の結果、ある種の準結晶は二種類の菱面体をペンローズパターンという幾何学的配置で三次元空間に配置した構造をしていること、その菱面体の頂点や陵に構成単位となるクラスターが配置されていること、それらのクラスターは正二十面体を基本とした入れ子構造(図参照)になっていることがわかっていた。しかし準結晶はその構造自体が複雑なこと、その構成が多元素系であり解析が難しいことなどから性質についての研究の進展は目覚ましいものではなかった。
蔡教授らは以前CdとYbからなる二元素系準結晶を作製しており、この準結晶においてCdが占めている位置を周期表でCdの両隣に位置するAgとInでAgとInの比が1:1になるように置き換えても同じ構造の準結晶が形成されること、そのAg-In-Yb準結晶を研磨していくとYbが準結晶特有の回折像を表すのに適した面がエネルギー的に安定であり、研磨表面として現れやすいことに気付いていた。そこで蔡教授らはAg、Inとはあまり結合しないがYbとは強く結合する特徴を持つPbを蒸着してYbの準結晶構造を模倣させる着想を得た。実際に、よく研磨したAg-In-Yb準結晶の表面にPb原子を蒸着させ走査型トンネル顕微鏡で観察すると、基板となったAg-In-Yb準結晶のYbによる回折像と同じ大きさの五角形や十角形を見ることができた。この回折像は数層分の深さにわたって観察され、蒸着したPbが準結晶の構造を有したまま三次元的に成長していることが確認された。
合成された鉛準結晶様薄膜は原子サイズなどの問題から層が重なっていくにつれ、もとの準結晶構造を物理的に取れなくなるなどの問題はあるものの、二元素系よりもさらに単純な単元素系であるため、準結晶の安定性の解明や超伝導などの新規物性の発見に期待が持たれている。蔡教授は「もともと、この準結晶という物質が超伝導を示すのか知りたくて始めた研究だったので、準結晶の性質に迫るかもしれない発見ができてうれしい」と語った。