【研究成果】震災ストレス、未だ ~アンケートから明らかに~
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東日本大震災の被災地において、心臓病患者の抱える精神的ストレスが増加していることが分かった。本学大学院医学系研究科循環器内科学分野の下川宏明教授らの研究グループがアンケート調査により明らかにした。
下川教授らは慢性心不全の原因とされる心血管病により東北大学病院循環器内科に通院中の患者1725名についてアンケート調査を実施。得られた1180名の回答をもとに被災者の精神的ストレスの程度や経時的変化を評価した。用いられたアンケートは世界標準として使われているもの。設問ごとに点数が割り振られ、得点が高いとPTSR/PTSD(心的外傷後ストレス反応/障害)陽性と診断される。「PTSR/PTSDを抱えた患者さんは心疾患を生じる可能性が高い」と下川教授は話す。
結果として、回答者を「被災なし」「地震の被災」「地震と津波の被災」に分けると、陽性と診断される頻度は「地震と津波の被災」を受けたグループに最も多くみられた。また、陽性と診断される頻度の変化を1年ごとに調べたところ、2011年よりも2012年に増加したことが分かった。これらの調査結果を受けて下川教授は、「ストレスは経時的に減少すると予想していたため、驚いた。2013年も調査を行い現在集計中だが、さらに増加している可能性もある」と語った。この原因としては東日本大震災の特殊性が挙げられる。今回の震災では強い揺れに加え、津波の被害を受けた。さらに原子力発電所の事故も発生。「地震」「津波」「原発」の異なる3つのストレスが重なり、長期間にわたって大きな精神的ダメージが蓄積されたと考えられる。
また2011年と2012年ではPTSR/PTSD発症に関与する因子も変化していた。震災直後は慢性心不全などの身体的症状が重い人に発症が多く見られたが、1年後は失業や転職、経済的困窮など社会的要因がより大きく発症に関わっていた。下川教授は「震災直後の急性期は薬剤不足や寒冷環境が、1年後の慢性期は長引く避難生活や睡眠・運動不足が大きな要因になったと考えられる」と述べている。
今後研究グループでは調査をさらに細かく行い、原発からの距離と発症の関係性、性別による発症因子の違いなどを明らかにしていく予定。これらの結果を生かし、患者の精神的ケアにも力を注いでいくという。