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【講演会】分光学の究極の検出限界――単一分子を見る事は可能か ~Dirk-Peter Herten博士~

5月30日、本学理学研究科・理学部化学教室一般雑誌会主催の平成26年度第三回講演会が行われた。




今回の講演者はドイツのハイデルベルグ大学のDirk-Peter Herten博士。Herten博士は物理化学分野を中心に活躍しており、その中でも単一分子分光法の開発における業績が評価されている。博士の貢献した単一分子分光法は現在では生物化学や、物理化学などの多岐にわたる分野で必要不可欠な技術となっている。

今回の講演はその単一分子分光法に焦点を当て、その題を「The ultimate detection limit of spectroscopy – Can we detect single molecules?(分光学の究極の検出限界 – 単一分子を見ることは可能か)」とした。今回の講演は学部生である三年生も対象としたため、ある程度基本的な内容から現在の最先端研究の内容まで、幅広く取り扱われた。


講演はまず「単一分子を見るために何が重要か」というテーマから始められた。博士は「sensitive(高感度)」「specific(特異性)」「selective(選択性)」「ambient conditions(対象の周囲の環境)」の4つが重要であると語った。これらの要求を満たす方法として博士らは蛍光色素を観察対象に結合させ、その蛍光を観測する手法を開発した。この手法の特徴的な点の一つは一分子からの蛍光を観測するために、観測する範囲を非常に小さく絞ることであった。この小さな観測範囲で試料表面をトレースしていくことによって蛍光を発する分子の位置を観測していくのだ。(図1参照)

また、蛍光の特徴として、単一光子の反応であることも重要であった。このことを利用することによって、観測された光が一分子からのものか、複数分子からのものかを判定することが可能となった。この手法はCounting on Photon Statics(光子統計計数)と名付けられた。



博士らが貢献して開発されたこの方法は様々な分野で応用されている。物理化学での応用例としてはそれまで非可逆反応であるとされていたエポキシ化が1%以下ではあるが可逆反応であることを発見したことが挙げられる。生化学の分野ではそれまでの手法に比べて、詳細な構造を観察することが可能となった。(図2参照)さらに、蛍光分子を複数種類利用することで、同じ時間における異なる分子の所在を同時に観測することが可能となり、生体内における複数の分子の局在を同時に調べることが可能となった。単一分子分光の手法は現在でも進歩が続いている分野の一つである。


本講演で明らかになったことは、通常の観測は多数の分子の集合体の平均値を見るが、分子を個別にみればミスリーディングが起きる可能性があることである。博士は「得られたデータが何を示しているかをしっかり検討して利用しなければならない」と語った。

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