【一言居士】―2014年10月ー実りの季節
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かつて寺田寅彦は、大学時代の講義を米に例えて「これなしに生きて行かれないことはよく知りながら、ついつい米の飯のおかげを忘れてしまって、ただ旨かった牛肉や鰻だけを食って生きて来たような気がする」ものと評した。80年前のある学生新聞に載った、色褪せない名文である▼先生の揚げ足をとる気はないけれども、旨い米もあると思っている。東北地方の肥沃な土と豊富な水によって育まれた稲は今、収穫期を迎える。今年の出来は上々とのこと。米は大きな寒暖差を乗り越えて、甘みが増しているのが特徴だ▼食卓の米が新米に移りゆくように、弊誌もそろそろ新米に取って代わる時期が近づく。古米ならぬ古株として及ばずながら心血を注いできた新聞である。出来はいかがであっただろうか。知名度の低さや収入の減少など、問題は山積したままである。現場に問い、色褪せない記事を提供するため、目指す場所は果てなく遠い。新米諸君には、激しい向かい風に打たれてもらうことになるだろう▼文章は「学生のときには講義も演習もやはり一生懸命勉強するに限る」と締めくくる。少々手遅れでも、「米の飯」もしっかり噛みしめて生きていきたい。風雨を乗り越えた先の、黄金色の「みのり」を目に浮かべつつ、改めて思う。