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【書評】『もう年はとれない』 ダニエル・フリードマン 創元推理文庫

 人間は誰だって年をとる。筆者はまだ大学生であるが20歳を過ぎた後の時間の経過に驚くことがある。あと数十年もしたら立派なおじいちゃんになるだろう。おじいちゃんになった自分がどうなっているのか。この本を読んで自分の未来に思いをはせてみる。




 物語の主人公、バルーク・シャッツ(愛称はバック)はアメリカ、テネシー州のメンフィスに住む87歳の老人。口を開けば毒舌と皮肉ばかり。さらにはアルツハイマー型認知症の疑いまであるという。しかし若いころは殺人課の伝説の刑事として名をはせていた。

 物語はバックの友人が死に際に、昔自分たちを苦しめたナチの軍人が生きていて、金塊を持っているのを見た、と伝えられたところから始まる。ありえないことだし、今はその軍人も生きてはいないだろうとバックは考えるが、その友人の遺族や教会の牧師、さらにはカジノの集金部長までもがその金塊を狙って動き出す。バックは孫のウィリアム・テカセム・シャッツと協力してナチの軍人と金塊の行方を追う。

 現役を引退してから30年以上たったバックは現代のインターネットを使った情報収集に全く対応できずに愚痴を漏らすのが面白い。グーグルでの検索に四苦八苦して悪口を言う姿は特徴的だ。

 筆者が80歳になったときに科学技術はどのくらい発展しているのだろうか。バックがグーグルに愚痴をこぼしているのを見て笑っていたが筆者もいざ80歳になったら同じようなことを未知の技術に対して思ってしまうかもしれない。そんな時、バックのように愚痴交じりの皮肉を言って笑い飛ばせるようになりたいものだ。

 本書は洋書であり、日本語に翻訳されて出版してある。興味があれば原書にも目を向けてみて、ニュアンスの違いを確かめてみるのも良いだろう。一人の老人の矜持を、この本を通じて味わってほしい。
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