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【書評】『F・O・U 一名「おれもそう思う」』 佐藤春夫 くぇい兄弟社

 人間はいつだって自分の信じるものしか信じない。時には盲目的になってしまうかもしれないが、本人にとっては信じた世界がすべてであるのだ。『F・O・U 一名「おれもそう思う」』はそんな人間の心理を巧みに描いた作品である。




 主人公はフランスで暮らすマキ・イシノという日本人である。彼は振る舞いや気品はとても紳士的でまるで貴族のようであるが、その性格は人の車に乗りたくなったから乗って街を駆け回ってしまう、いわゆる変わり者である。

 そんなマキ・イシノは前述した車の盗難の件で警察に事情聴取される。そのときに身元引受人として現れたのがフロオランスという貴婦人である。彼女は警察にマキ・イシノがどういう人物か尋ねたとき、彼に見つからないようにこっそりと塵まみれの卓にとある3文字を書いた。「fou(狂人)」と。

 そんなマキ・イシノの口癖は表題にもある「おれもそう思う」だ。車を盗んだ後、たまたま出会った子どもに持ち主に返した方がよいと言われると「おれもそう思う」。フロオランスに同棲をしたいと言われても「おれもそう思う」。友人との会話でも最後には「おれもそう思う」。彼の中では自分の「そう思う」世界がすべてなのであって、それが社会一般の常識であるとは限らない。社会の常識に逆らい自分の世界で生きていると「fou(狂人)」と呼ばれてしまう。社会で生き抜くことの難しさを痛感させる短篇である。

 この短篇の著者は佐藤春夫だ。大正時代の著名な作家であり、他作品には『美しき町』や『田園の憂鬱』などがある。興味があれば是非読んでみてほしい。
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