せんだい文学塾 直木賞作家・辻村深月さん ~小説書く喜び 語る~
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せんだい文学塾6月講座が6月23日、仙台文学館にて開かれた。講師は今年『かがみの孤城』(ポプラ社)で第15回本屋大賞を受賞した作家の辻村深月さん、アドバイザーは文芸評論家の池上冬樹さん。またゲストとして中論公論新社、文藝春秋、講談社、ポプラ社の編集者も参加した。
前半1時間は、講座の参加者が事前に提出した作品の講評が行われた。現在はR‐18文学賞、野生時代フロンティア文学賞、横溝正史ミステリ&ホラー大賞の選考委員も務めている辻村さんは、作品を選ぶ際、「この小説を必要としている人がいるかどうか」を重視しているという。辻村さんは「多くの読者は他人の痛みにそこまで興味がない」とし、その上で読者の共感を呼ぶ切実さが重要だと話した。また、読み手がいることの大切さを語る辻村さんは、「相手に対して手紙を書くように」平易で誰にでも読める言葉遣いを心がけているという。的確で理路整然とした講評に、参加者からは思わず拍手が巻き起こった。
後半1時間は「読むこと、書くことの喜び」がテーマのトークショーが行われた。辻村さんは高校時代、受験勉強が嫌で、後にデビュー作となる『冷たい校舎の時は止まる』を書き始めた。長編小説を書くことについて辻村さんは、「ヘリで海に投げ出される感覚に近い」と話す。プロットは最後まで漠然としている。結末を迎えて初めて、自分が書きたかったものに気付くことが多いという。
また、トークショーの随所で辻村さんは、自身が影響を受けた『ドラえもん』についても触れた。日常の生活と地続きになって不思議なことが起こる『ドラえもん』。辻村さんは「王道を行く物語は、その分着地が難しい」とし、ベタを守り抜き、希望を希望のまま描く『ドラえもん』のすごさについて語った。
現在2児の母である辻村さん。参加者からの「自分の子どもに、『お母さんの本が読みたい』と言われたら、どの作品をお勧めするか」という質問に対しては、「基本、隠しますね」と一言。子どもは大人に勧められた本よりも、自分で選び取った本が読みたいはずだと考えている。辻村さんは「『お母さんの本棚は絶対に開いたらダメだよ』と言ったら、子どもは勝手に開くはず。そこで読み始めたらいろいろ言わずに黙って見守ろうと思う」と笑顔で話した。
講座後には辻村さんのサイン会が行われた。今を時めく辻村さんの気さくな人柄で、終始会場は盛り上がっていた。
せんだい文学塾は原則として毎月第4土曜日、午後4時半から2時間、定員90人で行われる。受講料は一般2000円、大学生1000円、高校生以下無料。