【書評】『World War Z』マックス・ブルックス 文春文庫
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新型コロナウイルス感染症と人類の戦いが続き、感染拡大防止のための外出自粛や経済活動の縮小などによって、人々は疲弊し社会は暗い雰囲気に包まれている。そんなときだからこそおすすめしたい本がある。それはマックス・ブルックスによる『World War Z』だ。 本書は2013年に『ワールド・ウォーZ』として映画化されたが、映画とは設定から内容まで大部分が異なるため、映画を観た人でも楽しめる。
感染した人をゾンビへと変える謎のウイルスが突如として出現、人類社会を破壊し世界を侵していく。その初期の混乱と人類同士の争い、人類が生き残るためにどのように行動したか、そして反撃に転じ勝利に至るまでを描いた本作であるが、その描き方は極めて独特である。この小説はある国連職員が行った、世界各地の生存者へのインタビューのまとめ、という体で書かれたフェイクドキュメンタリーである。もはや過去の出来事となったゾンビとの戦いを、時系列に沿って登場人物一人ひとりが振り返っていく。それ単体では一個人の回想にしか過ぎないが、複数人のインタビューを読むことで人類とゾンビの戦いの全体像が浮かび上がってくるという斬新な仕組みとなっている。
この物語の登場人物はアメリカやインドなどの軍人、南アフリカの政治家、日本のオタクなど実に多様だ。だが、国籍や人種、立場に関わらず皆が生き残るため、また家族や人間社会を守るために必死に自らの責務を全うしたことで、人類側が勝利できたことが描写されている。