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次世代バッテリーとして期待 〜脱炭素社会の実現に貢献〜

 世界中で持続可能な社会の実現に向けた取り組みがなされる中、日本政府は昨年の臨時国会で、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルに取り組み、脱炭素社会の実現を目指すことを宣言した。本学でも脱炭素化の流れを受け、「創造と変革を先導する大学」として革新的なグリーン技術の研究が行われている。その中で今回は、グリーン技術の研究からその実用化を成功させた本学発のベンチャー企業であるAZULE nergy株式会社代表取締役社長の伊藤晃寿さんに、技術の詳細とその応用について伺った。



 AZUL Energyは、本学材料科学高等研究所の藪浩准教授の研究室で行われている青色顔料研究の過程で高性能の触媒が発見されたことを受け、その実用化を目指し2019年に設立された。伊藤さんは会社設立以前、富士フイルムの研究者として別の内容で藪准教授と共同研究を行っていた。研究における藪准教授との長年のつながりと、富士フイルムでの企業知識から、AZUL Energyの代表取締役社長に就任した。


 青色顔料研究の過程で発見された「AZUL触媒」は、FCV(燃料電池自動車)などに使われている燃料電池や、金属空気電池、各種貴金属触媒の代替としての応用が期待されている。燃料電池において触媒は、水素と酸素の化学反応によりエネルギーを生み出す過程で、化学反応を促進するために使われる。現在多くの燃料電池の触媒には、レアメタルである白金触媒が使われている。レアメタルを使った触媒は、脱炭素化の流れを受けて増加する燃料電池の需要に対して生産量が少なく、コストが高い。伊藤さんは、「NEDO(新エネルギー・産業技術開発機構)の2030年FCV国内普及目標である80万台を実現するには、年間30トン以上の白金が必要になる。それに対し白金の年間生産量は約190トンとなっている。脱炭素化の動きが活発化する今後、EV(電気自動車)とFCVの増産に伴い需要増加が見込まれる。これを受けて世界中で白金が不足し価格が高騰することが予想されている」と話す。白金のコストの高さと生産量の少なさは、FCVの普及において主要な障害の一つとなっている。

 

 それに比べてAZUL触媒は、塗料などに使われるフタロシアニン系化合物と、安価なカーボンを原料とする。フタロシアニン系化合物は塗料などにも使われており、原料が安価であることに加えて製造過程に高温や真空のプロセスが必要ない。生産量が限られる白金などのレアメタルに比べ、量産性に優れたAZUL触媒は、需要に合わせて生産を拡大することができる。現時点で、AZUL触媒の原価は白金の3分の1から10分の1以下に抑えられるとの見込みだ。今後、脱炭素化に向けたFCVのさらなる需要の増加が見込まれることから、その価格差はさらに大きくなることが予想されている。コストと生産性の面で燃料電池の生産量の増加につながり、FCVの普及を後押しする。


 さらにAZUL触媒は、触媒としての性能も白金を上回る。アルカリ性の環境下では、電圧をかけた際に得られる電流密度が白金よりも大きいため、アルカリ電解液を用いる燃料電池や金属空気電池として大きなエネルギーが得られる。


 燃料電池のほかにAZUL触媒の応用が期待されている金属空気電池は、燃料電池と似た原理で空気中の酸素を使って発電をする。現在主流であるリチウムイオン電池より3倍から10倍のエネルギー密度を持ち、次世代バッテリーとしても期待されている。AZUL Energyは、薄いフィルム型の金属空気電池を開発している。今後は、薄型電池を必要とするデバイスの電源として普及させることを目標としている。例えばアップルウォッチに代表されるウェアラブルデバイスや、ヘルスケア用のパッチ型センサーといったIoTデバイスなどだ。


 また、AZUL触媒は環境への影響面でも白金やマンガンなどの触媒より優れた特性を持つ。通常、乾電池は有害物質を含むため可燃ごみに出すことはできない。処理方法を誤って埋め立て処分や可燃ごみとして燃やした場合、環境汚染や人体へ悪影響を及ぼすことがある。これに対してAZUL触媒は、有害物や危険物を含まないため、可燃ごみとして廃棄することが可能だ。AZUL Energyは燃料電池や金属空気電池用の環境に配慮した触媒材料の研究開発を通し、SDGs(持続可能な開発目標)に貢献する。


 伊藤さんは、本学で研究活動を行う多くの学生に向けて「予想外の発見があることが研究の面白さ」と言う。AZUL触媒は、青色顔料研究の過程で発見された触媒だ。「研究とはある目的のために行われることが多いが、見方を変えると新しい別の活用用途が見つかる」。ぜひ心に留めておいてほしい。

研究成果 755422043930320679
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