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【特別インタビュー】元内閣総理大臣 安倍晋三さん ~世界を変える気概 持って~

 2012年より約8年間内閣総理大臣を務め、日本をけん引してきた安倍晋三氏。安倍氏に大学生に向けてのお話を伺った。



―大学時代、自身に大きな影響を与えたことは


 ベトナム戦争の終結と田中角栄内閣の終焉です。ベトナム戦争で、自由世界のリーダーである米国が敗れ去ったことに衝撃を覚えました。日本では、「今太閤」と称された田中さん率いる内閣が退陣したこと、田中さんがロッキード事件で逮捕されたことに衝撃を受けました。日本の守るべき体制が危うくなっていくという認識を持ちました。



―リーダーに必要なことは


 リーダーは、人々やチームの気持ちを一つにまとめていかなくてはなりません。そのために必要なことは2点あると思います。


 一つには、「チームが何を成し遂げていくか」を明確にし、共有することです。私が2012年に首相に返り咲いた際には、アベノミクスと呼ばれた「雇用を作っていく道筋」を国民に示しました。これまでの政権は、雇用の創出に大きな影響を与える、金融政策は日本銀行に任せなければならないという先入観にとらわれていました。しかし、私は政府と日本銀行はともに目標達成に向け協力していくべきだと考え、日本銀行と政策目標・課題の共有を行いました。その結果、400万人の雇用創出を実現しました。


 もう一つは、チームの構成員から信頼されることです。そのためにはまず自分がチームを信頼することが必要です。自分のことを信頼していない人のためにみんな汗を流しませんよね。政治の世界は力を失えば人が離れていってしまうのですが、私は仲間を信じることで、第1次政権で失敗を共有した仲間との関係を維持することができました。失敗を共有した仲間と第2次政権を担うことができたことは、第2次政権の大きな強みとなったのではないかと思います。



―首相を2度経験したことで得た教訓は


 自分の理想を実現する前に、まず国民のニーズに応えて、国民に安心してもらうべきだと感じました。第1次政権では防衛庁の省昇格や公務員制度改革など、私がなすべきだと思ったことを1年という短期間で実現していきました。しかし、短い期間で行ったために、強引なやり方になってしまいました。また、それが国民のニーズに合っていたとは必ずしも言えなかったと思います。そこで、第2次政権では、戦略的に優先順位を決めていくことにしました。まず国民の関心が高い雇用や経済への対策を打ち、その後に日本の安全保障の観点から私が必要と考える政策を実行しました。


 また、失敗を恐れずにチャレンジすることも重要だと感じています。第1次政権の時には、政権を投げ出した形になり国民の皆様に迷惑をおかけしましたし、批判も浴びました。私の政治家人生はここで終わったと思いました。しかし、2度目の首相を経験することになりました。最初は私も含め誰も予想できませんでした。自分を信じてチャレンジし続ければ、可能性をつかみ、自分の理想を実現できると思います。



―これから世界と渡り合っていく上で、日本人にとって必要なことは


 「国際社会に対して自分の理想を堂々と語ること」が必要だと思います。日本はこれまで、国際政治の場で「世界はどうあるべきか」の発信や、ルール作りへの関与を積極的に行ってきませんでした。私は、これは間違いだと思っていました。日本はGDP世界3位の経済大国で、国際社会の中で大きな力があるのです。そこで、私は「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンを提唱し、TPP11などルール作りを主導しました。ただし、これらには自らのビジョンを進めていく責任を伴うという覚悟をしなければなりません。



―各国首脳とどのように信頼関係を築いたか


 相手に「自分のことを理解しようとしてくれている」と感じてもらえるよう、相手を尊重することを意識していました。例えば、トランプさんはやはり、それまでの米国大統領のイメージからは外れた人でした。しかし、意外かもしれませんが、国際政治の舞台での先輩である私に敬意をもって接してくれました。私が彼のプライドを大切にしつつ、筋の通ったことを言えば、彼は自分の意見をひっこめることも多かったのですね。


 他にも、例えばプーチン大統領もドゥテルテ大統領も日本にとって非常に重要な国の首脳です。彼らは個性が強いと同時に、国内での政治力が強いです。約束したことを実行に移せる政治的な基盤を持っています。約束したことを守ってもらえるのは日本にとって大事なことですよね。彼らも首脳ですから、プライドは高いです。彼らに対して、学校の先生のような立場から説教を垂れるのは首脳の間ではありがちなことなのですが、私はそうした態度はとりませんでした。彼らのリーダーシップに敬意をもって、個性を見極めながら誠実に接することが大事なのだろうなと思います。



―最近の学生の印象は


 情報量が非常に多い中で、ITツールを使いこなしながらうまく情報を取捨選択している印象です。よく「今の世代は現状維持派だ」といわれますが、そんなことはないと思います。情報を選びながら自分たちで判断した、その結果なのではないでしょうか。


 また、「仕事を通じて世の中の役に立ちたい」という人が多いように感じます。私たちが学生の頃よりも豊かになって、社会や世界のことを考える余裕が社会全体に生まれたからだと思います。本心から社会貢献を唱える人が多いように感じられて、非常に頼もしく思います。



―本学学生へのメッセージを


 東北で学ぶという意義を考えながら、自らの考える世界や日本、地域社会の理想の形を発信してほしいと思います。東北大学の歴史を今まさに紡いでいるのは皆さんです。その歴史を感じながら、東北大生としてできることを考えてほしい。大きく動いている世界の中でこれからを生きる皆さんには、「自分たちが世界を変えていく」という気概を持って活躍してもらいたいと思います。



◎安倍晋三(あべ しんぞう)さん プロフィール


1954年東京都生まれ。77年成蹊大学法学部政治学科卒業。79年に神戸製鋼所に入社。82年外務大臣秘書官を経て、93年の衆議院議員選挙で初当選する。05年には官房長官を務め、06年に第90代内閣総理大臣に就任。07年に辞任するも、12年に第96代内閣総理大臣に再度就任する。以降、20年9月に辞任するまで7年8カ月に及び在任した。第2次政権の連続在任日数は2822日。第1次政権も含めた通算在任日数は3188日で、いずれも憲政史上最長となった。現在は、自民党憲法改正推進本部最高顧問を務める。



(10/2 13:50 初出より記事を加筆修正いたしました。)

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