【インタビュー】「わからない」と向き合うには① 「わからない」からこそ面白い
高校生には入試という期限がある。米価上昇による経済問題や数学などにおける「わからない」に立ち向かう時間は少ない。今高校生できることを理学研究科の大野泰生教授、経済学研究科の古谷豊教授に尋ねた。
(この記事は理学研究科大野泰生教授へのインタビューです)
―研究することの魅力は
直角三角形の直角という美しい調和が、均整の取れた三平方の定理に映し出されるように、未発見の美的調和や対称性を発掘し定式化することは、魅力的で重要です。
また、そうした事実は役立つことが多いのです。
例えば、素数や楕円曲線といった長年研究されてきた数学的対象の理論が、ここ数十年の社会の変化から急速に必要になった、情報通信における暗号技術に役立っています。用途ありきではなく、好奇心や感性により発掘された理論が、実社会に生かされる場面もまた、面白いと思います。
―研究で大切にしていることは
昼夜没頭することが大切です。今は役目が忙しくて難しいのですが…没頭の末に独特の感覚が宿ることがあり、過去にはその中で思わぬひらめきを得たこともあります。
―「わかる」とは
定理の理解を例にとるならば、自分の手で一から再び作り出せる状態のことだと考えます。理解したい事柄を読んで学ぶ際には、必ず「行間」と呼ばれる、説明のギャップがあります。著者が説明を尽くしたとしても、読み手にとっては、当たり前に思えない箇所がたくさん存在するはずです。そのひとつひとつを、確かに自分で理解して進むことが、「わかる」に近づく方法だと思います。
特に数学科では隙間のない理解を積み上げることにこだわります。その積み重ねの末に「わかる」ものだと考えています。
―「わかる」ために証明は必要か
定理や命題を深く味わい「わかる」ためには、証明は欠かせません。また、証明を丁寧に理解することも重要ですが、更に具体例も自力で確認して、多角的な理解に努めることも重要です。
自分の「わからない」には、例えばゼミなどで、先生や級友の前で学んできたことを説明し、質問や指摘をしてもらうことでも気付けます。
―高校生にメッセージ
恐らくいま、期限やノルマに迫られる中、画一的に「わかる」ことを求められて、「わからない」ことに目をつぶり、折り合いをつけているかも知れません。正直なところ、100%の納得をしていない部分があってもおかしくないと思います。
しかし、今「わからない」ことをマイナス視せず、「わからないからこそ面白い。わからないことはむしろ財産だ」と考えて「わからない」を大切にしてほしい。周りの皆が見つけられない疑問は宝であり、「わかる」「わからない」も個性です。
疑問を感じずスラスラわかることよりも、たくさんの疑問と納得を繰り返しつつ、精密に理解を積み上げられる力こそ優れているのです。
(聞き手は小宮正希)