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【ニュース】ラットの不安行動と脳の体積減少に関連性 PTSD治療の発展に期待

  本学加齢医学研究所応用脳科学研究分野の領家梨恵非常勤講師らの研究グループは7月10日、複数のストレスを受けたラットの不安行動が大きいほど脳の体積が減少することを発見したとプレスリリースに発表した。複数回のストレスにさらされたラットは、ヒトのPTSD症状と合致した行動を引き起こすため、今回の研究成果は、ヒトのPTSDに関する神経生物学的メカニズムの解明につながると考えられる。



 PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、死や重症、性暴力などの生命の脅威に直面すると、その記憶が恐怖などの強い感情とともに何度も思い出される難治性の精神疾患である。症状には、フラッシュバック、悪夢や繰り返される再体験、想起刺激の回避、精神麻痺、過覚醒などがある。現在国内患者は約70万人とされており、日本の生涯有病率は1・3%である。現在もさまざまな分野で、研究が進められているが、既に解明されている気質的要因や環境的要因に対して、遺伝的要因や神経学的機序などは未だ明らかになっていない。



 本研究では、ラットを複数のストレスが与えられるグループと、与えられないグループに分け、弱い電撃と対提示された場所で硬直するといった不安様行動を、長期にわたる行動観察とMRI撮影を用いて、比較対照を行った。その結果、不安行動が大きいほど、脳の扁桃体―海馬領域の体積が減少していた。扁桃体や海馬の活動が、不安行動の発現関連性があることは指摘されていたが、症状の強さなどの個体差が脳の体積減少の大きさと関係があることは初めて報告された。



 現在のPTSD治療は、当該トラウマを扱う認知行動療法と、選択的セロトニン再取り込み阻害薬投薬によるものが主流である。しかし、理療法では治療自体の有効性は高いが、治療者、患者共に負担が大きく、治療者の育成も難しいため、普及が困難である。薬物療法では、反応率が30―50%であり、改善しない患者も多い。本研究によって、扁桃体や海馬領域が、PTSD症状と相関のある脳領域であると解明されたことで、間接的にでもうつ病治療などで用いられる経頭蓋磁気刺激療法(TMS治療)のPTSD治療への応用や、新たな治療法の開発が期待される。



 本研究での発見を受けて、領家非常勤講師は「PTSD同様に脳の体積が減少する、アルコール依存症やアルツハイマー型認知症を発症していることで、PTSDになりやすい可能性もある」と語る。また、アルツハイマー型認知症の治療薬であるメマンチンは、神経細胞の新生を促し、恐怖記憶の忘却が促進されるため、PTSD治療に有用であることが分かっている。また、萎縮した脳体積を再び増加させた研究もある。



 事故や天災などで誰しもに発症する可能性がある身近な精神疾患であるため、PTSD治療の研究の発展が今後も期待される。 

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