【研究】急性期の脳梗塞治療に革新 薬剤の有効性確認 医工学研究科 新妻邦泰教授ら
本学大学院医工学研究科新妻邦泰教授らの研究グループは11月11日、急性期の脳梗塞患者に対してTMS-007(JX10)という薬剤を脳梗塞後12時間以内に投与することで、優れた安全性と有効性が確認されたと発表した。発症後12時間まで使用できる抗炎症作用と血栓溶解作用を併せ持つこの新薬が完成すれば、脳梗塞治療に革新をもたらすと期待されている。
脳梗塞とは、生活習慣病や慢性腎障害による動脈硬化、不整脈などによって、脳の血管に血栓が詰まり、血液の行き届かなくなった脳の神経細胞が死ぬ疾患である。脳の細胞は血流が止まると数時間で死ぬが、一度死んでしまった脳細胞を再生することは困難だ。そのため、脳梗塞の治療はできるだけ早く血流を再開させることが重要である。
現在、血流を再開させるために使われている治療法では、脳内の血管が破裂し命に関わるリスクを伴うものや、高度な技術を必要とし、医療資源の乏しい地域での実践が難しいものがあり、どちらも発症後使用できる時間にも制限がある。そのため脳梗塞発症から一定の時間が経過した後でも血管を安全に再開通できる薬剤が切望されていた。
今回新妻教授らのグループは、最終未発症確認時刻から12時間以内に、既存の薬剤やカテーテルによる再開通療法を受けられなかった患者90名を対象に、TMS-007を点滴投与した際の安全性および有効性についての治験を行った。その結果、症状の悪化を伴うような頭蓋内出血の発生率は、TMS-007群で0%だったのに対し、プラセボ(偽薬)群では 2.6%であった。また、神経運動機能に異常を来す疾患の重症度の評価であるmRSスコアが0(障害が全くない)または1(症候はあっても明らかな障害はない)である患者はTMS-007群では40.4%に対し、プラセボ(偽薬)群では18.4%となり後遺症のリスクが低いことも示された。
TMS-007は脳梗塞発症後12時間まで使用することができる。また血栓溶解作用と抗炎症作用をもつため、脳血管の再開通後の出血の可能性も低い上に、医療資源を過剰に使用しない。現状、再開通療法 を受けられる患者は全体の10~20%程度だが、TMS-007が実用化されればより多くの患者が治療を受けることができるようになる。
脳梗塞は超高齢社会の我が国では身近な疾患である。脳梗塞を発症した患者の50%以上に後遺症が残り、寝たきりや要介護の主要な原因となっている。現在、再開通療法可能時間が過ぎた患者を治療する根本的な方法はないが、新妻教授らのグループによって研究が進んでいる。研究では、本学大学院医学系研究科細胞組織学分野の出澤真理教授の発見したMuse細胞を用いて脳梗塞発症後2週間以上経過した患者への治療の研究も新妻教授らのグループによって進み、優れた治療効果が発表されている。脳梗塞治療の今後の発展が期待される。