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【インタビュー】「わからない」と向き合うには② スケールの大きな人間に

高校生には入試という期限がある。米価上昇による経済問題や数学などにおける「わからない」に立ち向かう時間は少ない。今高校生できることを理学研究科の大野泰生教授、経済学研究科の古谷豊教授に尋ねた。


(この記事は経済学研究科古谷豊教授へのインタビューです。また、紙面では省略した内容も掲載しています。


ふるや・ゆたか
本学大学院経済学研究科経済経営学専攻経済基盤講座に所属
研究分野は経済学史(写真は本人提供)



―研究の魅力は何か


 18世紀には、経済学は学問領域としてまだ完全には独立していなくて、自立していく途上にありました。関連する学問領域──例えば国家学や政治学、道徳哲学など──との関係の中で、経済学は自らがどのような領域なのか、悩み、試行錯誤しながら、自分の立ち位置を確立していった時期でした。


 だからこの個別科学が、どのようにして現在の領域に至っていったのかというのが最も見てとりやすい時代について研究しています。そこから今日の経済理論を広く捉える視座が得られるというのが一番の魅力だと思います。


―研究内容は


 私の研究は経済学史という、経済学の歴史を扱う分野です。その中でも18世紀の経済学の成立期の多様な様相を専門としています。当時は、経済活動の中で生産の側面を重視した理論が支配的になりつつあり、その裏側で生産以外の側面、特に貨幣や流通を重視する経済理論もあって、この両者のせめぎ合いを中心に研究しています。


―本学で研究を進める良さは


 研究者としては非常に恵まれた環境です。同僚の研究者たちから受ける刺激もさることながら、優秀でエネルギーにあふれた大学院生たちから受ける刺激、そして真面目でキラキラした目つきの学生たちから受ける刺激。これらに日々、新たに力をもらいながら、研究生活を送れています。 


 仙台という街もちょうどいい大きさで、都会過ぎず、田舎過ぎず、しかもキャンパスのある川内は豊かな緑の中にあります。都会の文化性に囲まれつつも、都会の喧騒に邪魔されずに、研究・教育に集中することができます。人的な面でも環境的な面でも、非常に恵まれていると思います。


―政治・経済の学びにおける高校までの学びと大学の学びにはどのような違いがあると思うか


 一番大きな違いは、専門教育であるという点です。高校までは、英・数・国・理・社をはじめとして広くバランスよく学び、その中の例えば政治に関する勉強だったり、経済に関する勉強だったりをします。けれども大学に入ったら、経済学部ならば経済学を専攻する学生として、経済学に関するさまざまな科目を、深く、専門的に学んでいきます。


 そして社会に出てからは、経済学の専門教育を受けた人材として、社会の中で役割を果たし活躍することが求められます。すると、例えば高校の教科書での経済についての記述を見ると、限られた時間でバランスよく広い領域について知ってもらうために結論を中心に書いてあります。けれども大学では、高校の教科書に書いてあったその「結論」についても、なぜそのような結論に至ったのかというプロセスにまでさかのぼって学ぶことが多くなります。


 その結論を導き出すうえでの理論だったり、データや時代状況だったりについて学び、さらには自分自身でもその理論やデータを用いて結論へと至れるような訓練を受けていくのが、大学での学びです。実は政治・経済の「結論」の多くは、実際の社会の中で見てみると、確かに正しいのだけれども、完全無欠の正しさであることは少なく、80点の正しさだったりします。


 異なる立場からはいろいろな意見の違いが出てくるということも理解できつつ、そのうえで「なるほどこの結論が、相対的に合理性・説得性が高いな」ということを理解できる力を身につける必要があり、このような力は専門教育での、結論へと至るプロセスをたどる力をつけていく中でこそ、備わっていくものです。


―経済学史を学ぶ意義や、学んで身につけてほしいと思う力は


 経済学を学ぶ上での視野の広さです。経済学部では、数多くの細分化された科目を通して経済学を学んでいきます。今日の発展した経済学を学ぶためには、このように分けて学ぶことがどうしても必要です。けれどもそうすると今度は、細分化された科目同士のつながりを理解する努力が必要になります。経済学史を学ぶ意義の1つがここにあります。


 経済学の歩みをたどりつつ、「元々は1つだったものがこんなふうに分かれていって今の様々な科目になっていったのだな」という、過程的な俯瞰力をつけていくことです。さらに、経済学と隣接する学問分野との関係についても、理解する努力が必要になります。


 経済学の歴史は、経済学が隣接する学問領域とせめぎ合いながら、絶えず「経済学とは何なのだろう」と悩み、その時々の答えを出してきたという流れでもあります。政治や国家、社会、生活等々とのつながりの中で経済学の輪郭を捉えていける、分野的な俯瞰力をつけていくこともまた、経済学史を学ぶ意義の1つです。


―現在使っている執務机は著名な経済学者が使っていたと講義で聞いたが、その経済学者の名前は


 宇野弘蔵先生という、日本を代表するマルクス経済学の先生が使っていました。宇野先生は1924年に、まだ設置されたばかりの東北帝国大学法文学部に赴任して、この仙台の地で後に宇野派マルクス経済学となる学問体系をつくっていきました。戦争中のマルクス主義弾圧のなかで検挙され、戦後は東京大学に移られてしまいましたが、その後も東北大学に非常勤講師として来られるなどつながりは途切れませんでした。この宇野先生の机は、その後代々受け継がれてきて、私で確か4代目になります。私の前は農業経済学の柘植徳雄先生がとても大切にしていました。私が東北大学に来た2004年に、「古谷さん、将来、この宇野さんの机を古谷さんに託しますので、そのときは大切に受け継いでください」と言っていただきました。


―本学を志望する高校生へのメッセージ


 東北大に入って、4年間でどう成長したいか。社会に出たとき、どんな自分になっていたいか。こういうことを考えながら、ぜひ、充実した高校時代を過ごしてください。目の前の受験勉強に汲々とするのではなくて、その先のことを考え、夢と志を大きく育てて東北大に来てほしいです。というのも、勉強や知力はたしかに大切なのだけれども、みんなが将来社会で活躍するときには知力以外のこともまた、大切だからです。東北大に受かるくらいの学力はさっさと身につけてしまって、将来の夢を大きく描きながら、体力もつけ、そして人間力も広げていく。そんな高校時代を送ってほしいです。部活も、日々の友達との関係も、どうぞ大切にしてください。例えば日々の友達との関係でいうと、果たして自分は、尊敬できる友達を持てているだろうか。友達から信頼されるような自分になれているだろうか。いざというときに友達の協力を得らえる自分になれているか。逆にまた、自分が大変な時でも、自分は友達に手を差し伸べられるだろうか。こういった人間力を、苦い思いも重ねながら身につけていくうえで、10代は、とりわけ高校時代は、とても貴重な時期だと思います。東北大に合格してキャンパスに来た時に、知力・気力・体力を兼ね備えた、スケールの大きい、ギラギラしたみなさんでありますよう。

(聞き手は松村倖太)

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