【研究】能登地震の誘因解明 古マグマの破壊に起因
10月15日、本学大学院理学研究科の髙木涼太准教授らの研究チームは、古マグマの破壊が能登地震の発生につながったと発表した。
髙木准教授らはもともと、2020年より能登半島で発生していた群発地震を調査していた。群発地震とは、明確な本震を持たずに小規模な地震が特定の地域に断続的に発生する現象を指す。2023年の10~11月にかけてデータを観測し、群発地震について解析していた。ところが、観測終了から1カ月後に能登地震が起こった。髙木准教授らは、群発地震と巨大地震には関連があるのではないかと考え、その解析にも着手した。
本研究では、地下の地震波速度の3次元的な分布、すなわち、地下構造を調べたという。その結果、能登半島の群発地震の震源域のすぐ西側に、S波の伝わるスピードが周囲より速い領域(高速度体)が存在することが判明した。研究チームはこの高速度体の正体を三つの理由から推測した。
一つ目は、地震波速度が固い岩石では速く、軟らかい岩石では遅くなるという性質だ。すなわち、速度が速い領域は固い岩石の存在を示唆する。
二つ目は、能登半島には火成岩(マグマが冷え固まってできた岩石)の分布など、過去に火山が存在したとされる形跡があることだ。この火成岩は1500万年以上前に形成されたとされる。
三つ目は、本研究で推定したS波の速度だ。通常は約3㌔㍍毎秒であるが、今回は3・8~4㌔㍍毎秒であった。この速度は玄武岩質深成岩(マグマが地下深部で冷え固まってできた鉄やマグネシウムに富む岩石)での速度に近い値だという。
これらのことから、高速度体の正体は、深成岩に対応する古マグマと推定した。
古マグマは「不透水性の壁(水を通しにくい層)」として機能していたとされる。透水性と断層破壊の関係は定かではないが、流体(今回は水)の関与が指摘されている。断層は岩石同士の摩擦力によって保たれているが、水が断層面に入り込むと水圧によって垂直抗力が小さくなり、摩擦力が弱まるため、地震が発生しやすくなる。古マグマは水を通さないことで、その内部にエネルギーが蓄積されていたと考えられる。
一般に地震波速度が速い場所は、周囲よりも岩石が固くひずみが蓄積しやすいため、特に大きな地震が起こりやすいと考えられている。能登半島地震では最終的に古マグマの中で断層破壊が起き、この固い古マグマが破壊されると同時にアスペリティとして機能した。アスペリティとは、破壊される断層の中で特に滑りにくい領域のことだ。エネルギーがたまっていることから、この破壊は大規模な地震を引き起こす。
髙木准教授は「地震波速度が速い領域の起源が分かるのはレアケースであり、高速度と大地震の対応関係がより明確に見えたのも成果だ」と強調する。
能登地震は150㌔㍍の領域を一気に破壊したが、今回注目したのは群発地震が集中発生した箇所のみであった。髙木准教授は「複雑な地面隆起も起こっており、これは断層運動も複雑だったと考えられるが、それがなぜ起こったかを地下構造の観点から調べたい」と意欲を示す。そのためのデータは取得済みであり、解析中だという。
現地で使われた地震計 (=本人提供)
また、群発地震は各地で起こっていて、一般には群発的な活動で終わるが、能登半島では大地震を伴ったという点で違っていた。髙木准教授は「高速度体や古マグマなどの検証を通して、群発地震が巨大地震につながる場合とそうでない場合の違いを明らかにし、群発地震の時間発展の理解を深めたい」と語った。

