【研究】アルツハイマー記憶障害解消 ドーパミン不足に起因
本学大学院医学系研究科の五十嵐啓・国際卓越教授と中川達貴助教らの研究チームは4月24日、マウスを用いた実験で、記憶をつかさどる脳領域である嗅内皮質でのドーパミンの不足が、アルツハイマー病の記憶障害を引き起こしていることを発見したと発表した。
嗅内皮質の外側部という部位は、神経伝達物質であるドーパミンを使って、匂いの記憶をしていることを五十嵐教授らは発見していた。また、パーキンソン病の研究を基に、加齢とともにドーパミンが死にやすくなるのではと考えた。これらを契機に、高齢になると発症するアルツハイマー病と、記憶を制御するドーパミンに関連があるのではないかと考えた。
嗅内皮質に放出されているドーパミンが記憶の形成を促進しているということは、健康なマウスの実験で分かっていた。本研究では、アルツハイマー病を引き起こすと考えられるアミロイドβというタンパク質が発現するマウスを使い、嗅内皮質に放出されるドーパミンの量が減っているかを実験的に検証した。
その結果、健常なマウスに比べてアルツハイマー病マウスでは、ドーパミンの放出量が減っていることを発見した。その他にも、ドーパミンが放出されると、嗅内皮質の神経細胞の活動を活性化し、嗅内皮質の中で記憶を形成するという活動も見つかった。
また、本研究ではドーパミンを増加させる方法として「レボドパ」の投与と、光遺伝学法の実施を行った。
レボドパは、パーキンソン病の治療薬で、ドーパミン量を補うことができる。これ自体が、ドーパミンになる前の物質でできている。
光遺伝学法は、光によって活性化されるチャネルロドプシンというタンパク質を、アデノ随伴ウイルスという人工ウイルスを用いて特定の神経細胞に発現させ、光を用いてその神経細胞の機能を活性化する方法だ。この手法で、ドーパミンを放出する神経細胞を人工的に活性化させた。
レボドパの投与・光遺伝学法のいずれも、記憶を形成する活動が改善していた。なお、記憶の回復は一時的なもので、長期的な回復には、常に薬の摂取や光の照射が必要である可能性がある。
ネズミなどのげっ歯類は嗅覚が優れているという。そこで、「匂い」をマウスに記憶させた。中川助教によると、本研究では、バナナのような匂いと芳香剤の匂いを覚えさせたという。実験ではもともとの記憶と結び付かないよう、マウスが嗅いだことのない匂いを嗅がせているようにしているという。
中川助教は「本研究はマウスを使ったものであり、ドーパミンがヒトのアルツハイマー病患者でも減っているか調べる必要がある。それが分かれば、ドーパミンをターゲットとした治療薬の開発につなげることができる」と展望を語る。
五十嵐教授は「脳の前頭前野の調子が悪くなると統合失調症の原因になることや、ドーパミンの調子が悪くなると統合失調症になることが分かっている。嗅内皮質は前頭前野と結合が強いことも私たちは明らかにしている。嗅内皮質のドーパミンはアルツハイマー病の他にも、精神疾患に関わっているのでは」と、同じ脳の仕組みが全く違うものに関わっている可能性も指摘した。
