【研究成果】小惑星内部 水の振る舞い解明 ~太陽系形成の謎に迫る~
https://ton-press.blogspot.com/2014/01/blog-post_10.html
本学大学院理学研究科の木村勇気助教らは、太陽系形成期、小惑星内部の無重力空間に浮かぶ水滴の姿を世界で初めて明らかにした。今回の研究成果について、木村助教にお話を伺った。
―なぜ小惑星内部の水の振る舞いを調べる必要があるのでしょうか
本研究の究極的な目的の一つに、太陽系の形成過程を解明することが挙げられます。小惑星内部においてどのように物質が循環し、内部に含まれる鉱物が生成されたかが、その目的を達成する鍵になると我々は考えています。
これまでの調査から、小惑星の落とし物である隕石の内部に、水の痕跡が含水鉱物として見つかっています。しかし液体の水自体はすでに蒸発してしまっており、どの過程で消失したかはわかっていません。
水は有機物の進化や鉱物の変質にとても大きな影響をもたらします。小惑星内部においても、水・有機物・鉱物の相互作用がとても重要な意味を持つため、水の蒸発のメカニズムを解明する必要があったのです。
―今回の研究内容について教えてください
まず着目したのは、隕石内部に含まれていた磁鉄鉱です。磁鉄鉱粒子からなるコロイド結晶を人工的に生成すると、粒子の大きさや配列はバラバラで不規則なものになってしまいます。しかし隕石に含まれるコロイド結晶を解析すると、粒子は大きさと形が均一で、かつ規則的に並んでいました。これは小惑星内部において全ての粒子が同時に生成され、また特殊な磁区構造をもつことを示しています。
そこで我々は、電場や磁場を可視化する電子線ホログラフィーという手法を用い、その特殊な磁区構造の解明を試みました。するとナノ磁鉄鉱粒子の磁区構造が、天然には例のない、渦状に自らの磁力線を閉じ込める構造であることが判明しました。
また磁鉄鉱粒子同士は反発力で並ぶため、結晶の生成には閉じた空間が必要になります。その閉じた空間というのが、まぎれもない液体の水なのです。水滴内部にある磁鉄鉱粒子の渦状の磁区構造が、磁石の引きつける力を内部に閉じ込めることによって、水の蒸発に伴い行き場を失った粒子が規則的に並んでいたことを突き止めました。
したがって、無重力下の小惑星内部において、水は水滴状になって蒸発していたのです。
―今回の成果には、今後どのような応用が期待されていますか
先述のとおり、様々な化学種が濃縮したスープのような水と有機物、鉱物の相互作用により、いかに有機物の初期進化や小惑星内部の鉱物の形成が進んだかの解明につながります。また工学において、磁性粒子のコロイド結晶は未来の大容量記憶デバイスとしての可能性も秘めており、今回の粒子配列の過程が新たなそれの合成の足掛かりになりえます。