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【書評】『異邦人』 アルベール・カミュ 新潮文庫

 『異邦人』はアルベール・カミュを代表する作品だ。「きょう、ママンが死にました」という大胆な一文から始まり、人間社会の不条理をテーマにした実存主義小説として評価が高い。また、無神論者と理神論者の間における価値観の違いを鮮明に表現した独特の文体は、読み手を文字の世界へと引き込む。




 主人公のムルソーは、母の葬儀では涙を流さず、親の遺体を見ようともしない。それどころか、葬儀の翌日には海水浴に行き、昔の女性と交際をはじめる。その後、不運もあって人を殺害し逮捕されるが、その動機について尋ねられると、「太陽が眩しかったから」と言い放つ。

 ムルソーの周りで起きた出来事だけを見れば、狂った男だとイメージする人も少なくないだろう。しかし、小説を読み進めていくと、人間味のある男だ、という印象が不思議と残る。その理由は、彼が無神論者であり、神でなく、己の理性に従い生きているからなのだろうか。そのように考えると、明らかに普通ではない行動の数々が、たちまち人間らしいと感じ、今までの行動には全て一貫性があったのだと認識させられる。

 キリスト教社会における真理、カミュが考える実存主義の核心、ユマニストのキリスト教に対する反抗など一読しただけでは難解なテーマも多いが、何回読んでも考えさせられることの多い一冊だ。
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