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【書評】『どん底』 マクシム・ゴーリキー ゆまに書房

 どん底―― 。タイトルからして鬱屈さを醸し出すこの戯曲は、1901年から02年にかけてロシアの作家マクシム・ゴーリキーによって執筆された。100年経った現在でも幾度となく上演されている名作だ。




 舞台は1900年代初頭のロシア社会における貧民窟。原作は四幕で構成され、十数人の登場人物の日常が淡々と描かれている。

 『どん底』にはうっすらとした起承転結はあるものの、主人公は存在しない。木賃宿の亭主の妻とその情夫を中心としてある事件が起こるが、取り立てて大波乱を巻き起こすということもない。物語は終始単調に進み、所々に垣間見えるストーリー性は、有り余るほど多い日常会話に埋もれてしまうのだ。

 しかしながら、本書の一番の魅力は彼らの日常会話にある。誰もが自らの絶望的な境遇を理解しながら、生や自由への渇望、人間というものに対する考えを飾らぬ言葉でぶつけ合う。欺瞞や強欲にまみれた社会の最下層においては、その言葉はある種の美しさをもって私たちの心を打つ。

 「人間は憐れむべきものではない、尊敬すべきものだ」「人はより良いものもために生きているのだ」これらは本書に登場する言葉だ。他にも真意を捉えた言葉は多数登場する。一本調子の展開に退屈する人もいるだろうが、ぜひ一読してほしい。生や自由についてあまり考えることのない私たちに、100年前にどん底で生きた彼らの言葉は確実に活力を与えてくれる。
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