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【書評】『三月は深き紅の淵を』 恩田陸 講談社文庫

 『三月は深き紅の淵を』という謎めいた小説に魅了され、それを追い求める人々の姿を描いた物語。本の中に本があり、気が付くと読者が登場人物の一人になっている。そうした不思議な感覚が読後に待っているだろう。




 「待っている人々」、「出雲夜想曲」、「虹と雲と鳥と」、「回転木馬」の順に4章でなるが、それぞれは関連がなくて話のジャンルもばらばら。ただ一つ共通する『三月は深き紅の淵を』という小説も、章によってその姿は異なる。ある時は、白紙。ある時は、執筆途中。作者を探す人もいれば、これから書こうとする作者もいる……。

 本書の魅力はこれだけでない。この一冊に集まった短編は、以後の恩田作品の断片集だ。第一章は『黒と茶の幻想』に、第四章は『麦の海に沈む果実』にストーリーがつながっていく。一つの短編が二つの長編を結ぶ、いわば「恩田陸の案内図」のような小説だ。

 『三月は深き紅の淵を』は、著者が得意とする描写で溢れている。読み進めると、どことなく懐かしい。街外れの洋館や夜行列車の車窓、海が見える公園で進む物語。幼い頃に誰しも経験したちょっと不思議な出来事や一途で切ない恋心を軸にストーリーは展開していく。「ノスタルジアの魔術師」の異名をとる恩田陸の真骨頂が随所にうかがえよう。

 「恩田陸の案内図」を開いてみよう。数々の恩田作品がみなさんを待っている。お気に入りの一冊を探し求めて読みあさるうちに、いつしか本当に『三月は深き紅の淵を』に出会えるかも。もし手に入れたら、私にも一晩貸してくれますか?
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