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仙台短編文学賞受賞作『あわいの花火』の作者語る ~震災後の日常描く~

 第1回「仙台短編文学賞」の受賞作が先月10日に発表された。仙台短編文学賞は、仙台・宮城・東北の地から発信する文学賞であり、昨年新設されたにも関わらず、576編もの応募作品が寄せられた。その中から、河北新報社賞を受賞したのが、仙台市在住である安堂玲さん(47)の『あわいの花火』だ。受賞を受け安堂さんは、「本当に驚いた。何かの間違いではないのかと思った」と振り返る。




 小説の舞台は、8月に仙台市の広瀬川で開かれる灯籠流しと花火大会。震災で家族を失った12歳の晴也と、彼を引き取った伯父の勇一が、花火が始まるのを前に、震災に対するやり場のない思いを語り合う。選評では、「情緒纏綿(てんめん)になりがちな鎮魂という重いテーマを、洒脱な会話が救っている」と、小説全体の雰囲気が高く評価された。

 小説の後半、晴也と勇一は、広瀬橋のたもとで拡声器を手に持ち、「震災を忘れるな!」と演説する男を目にする。勇一はそれを見て、「俺、あの言葉嫌いだ」と晴也に漏らす。「忘れられるなら忘れればいい。被災地の人間は、誰よりも悲しい思いをしたんだ。これ以上痛みを抱える必要なんてない」と、大きな被害を受けた地域の内側と外側で、震災への思いがすれ違うもどかしさを口にする。

 「仙台にも日常があることを書きたかった」と安堂さん。当初は震災について書くつもりはなかったが、震災を含まずに仙台に住む人々の日常を描くことは不可能だと悟ったという。安堂さんは「深く傷ついた人たちはどうやっても震災を忘れることはない。その人たちに向けて『震災を忘れるな』と訴えるのは、どこか方向性が違うように感じた」と続けた。

 「大切なのは、被災地への支援の現状や震災での教訓を外側に発信することなのではないか」。だが、そのことを現実に口に出すのは、世間的にタブーであるようにも感じられ、「小説を書くということを通して、その葛藤を表現できたように思う」と振り返った。

 晴也と勇一の会話の中で晴也は、勇一の同僚である小峰が、姑の強い意向で家族と離れて暮らさざるを得なくなったということを聞き、唐突に「――被災者だね」と言う。「小峰さんもだけど、お姑さんも、みんな被災者」「震災は、生き残った人も壊すよね。ちょっとずつ。波が砂を崩すみたいに」

 この印象的な場面について安堂さんは、被災地の内側でも外側でも、大なり小なり皆傷ついているという思いを表したかったと明かす。他人の気持ちは分からないが故に、自分の善意で行動し、結果的にすれ違ってしまうという震災後のもどかしさも、伯父と甥の何気ない会話を描くことで見えてくるのではないかと考える。

 小説を書き始めたのは、生命の危機を感じるほど体調を崩したのがきっかけだという安堂さん。締め切り直前に仙台短編文学賞の存在をインターネットで偶然知り、その後3日間で書き上げた今作で賞を手にした。河北新報の朝刊で自分の小説が読めることは楽しみだったという。今回受賞した仙台短編文学賞について、安堂さんは「仙台に文学賞ができたことはとても嬉しかった。仙台・宮城の文学シーンがもっと盛り上がってほしい」と語った。
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