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【とんぺー生の夏休み2019】選評 エッセイ・コラム部門

 記念すべき第1回目のコンクールでしたので、受賞作を出したかったのが正直な感想です。しかし、選考会を進めるうちに、妥協の末に選んだ作品では、応募してくれた方に対して不誠実なのではないかという理由で、今回は「受賞作なし」という結果に終わりました。


 作品の評に移る前に、記すことがあります。「『とんぺー生の夏休み』作文コンクール」は、「学生が何かを表現するための端緒になれば」という意味も込めて、今回開催しました。「表現」とは、人間にとってどのような行為なのでしょうか。私自身、上手く答えられる自信がありません。しかし、一人一人の「表現」の意味が否応なく問われたのが、「あの日」であると思います。
 当時中学1年生だった私は、テレビで同じCMが流れ続ける奇妙な日常の意味を、あまり理解していませんでした。しかし、大学生となった私には、どうして震災直後に、例えば、家に帰ると温かい家族が迎えてくれるような、住宅のCMが放送されなかったのか、痛いほどに分かります。
 「笑う」「食べる」「洗う」「泣く」「帰る」「会う」「住む」……それが何かの意思表示である限り、人間の行動は全て、広義の意味において「表現」なのではないでしょうか。2011年3月11日に起こった東日本大震災は、私たちに、「表現」それ自体を根本的に見直すことを強いたのです。
 そして、ある意味「表現」の象徴である「書く」「描く」「映す」「歌う」といった創作は、震災後、重大な岐路に立たされてしまったように思います。「被災地に夢と希望を届けたい」「震災を風化させてはいけない」その言葉がいかに素晴らしいことか。だからこそ、その創作に、夢と希望も、風化に抗う力も感じられなかった絶望は、計り知れないのです。「震災を書く」という「表現」において、作者は、それだけの責任とリスクを背負っているのではないでしょうか。

 「無自覚の恐れと向き合う」。東日本大震災に関心を持つ大学生の、福島第一原発事故を巡る東電強制起訴判決に際した話です。作品を読み始めた時、私は期待感を抱いていました。当時はまだ若かった学生が、ようやく震災と向き合い、そこから立ち上がっていった言葉を、必死に掴もうとしているのではないか。「震災を書こう」という作者の試みを、大切にしたいと思っていました。
 しかし、期待を抱いて読み進めると、私は微かな違和感を感じました。選考会でも他の選考委員から「違和感」という言葉が出ていましたが、私にとって、それは「言葉」に対してでした。原発事故にまつわる「影響」という言葉が、中ほどと終わりに2回出てきます。普段から誰しも使うであろう、その些細な2文字に、私は妙なものを感じ、しばらく見比べてみました。二つの「影響」の微妙な差異に、私は何か言いくるめられているような気分になったのです。原発事故の「影響」。この作品において、最も慎重になるべき言葉の一つだと思います。震災を経験したあらゆる人々にとって、絶望や憎しみに地続きであるはずの「影響」に、私は、作者のわずかな逃げを感じてしまいました。肝心な意味がないがしろのままの「影響」に、作者の「無自覚」な言葉の使い方に、私は本作を推すことができませんでした。本作には、良い意味でも悪い意味でも、強い「正義」を感じます。けれど、作者は、震災そのものから立ち上がる言葉一つ一つを曖昧にせず、逃げることなく向き合って初めて、「震災を書く」という「表現」をする端緒が開けるのではないかと思います。
 私個人は、エッセイ・コラムというジャンルにおいて、「事実/虚構」の線引きは、作者の主観によるものであってよいと考えています。しかし、マスメディアが選考するコンクールである以上、実際に起きた出来事がテーマとなる場合は、事実が重視されるのは明らかなことです。事実に基づかない風評を含む記述は、それだけで評価が難しくなることを、ここに記しておきます。

 「タピオカについて考えてみた」。昨今ブームとなっているタピオカとSNS、いわゆる「インスタ映え」との関係を巡る作者の一考察です。選考会は、ペンネームを含む作者の個人情報を一切知らないままで行われたのですが、短編小説部門の「止まってくれ!」と同じ作者であることを知り、「なるほど」と納得しました。平易な言葉で、読みやすいと感じました。しかし、やはり、作者がどう思っているのかを知りたいと思いました。選考会では、ナンバリングの手法から、「ブログに近いのでは」という意見も出ました。
 タピオカもSNSも、エッセイ・コラムの題材としてはありふれており、そこに作者の独自の視点を盛り込むのは非常に難しいと思います。肯定/否定どちらの立場をとってもいいのですが、どうせなら振り切ったものを読みたいです。それは、「インスタ映え」に対するひがみや皮肉、自虐といった負の感情でもいいのです。負の感情も突き抜ければ、読み手に「笑い」さえもたらします。せっかく意味の伝わる言葉を紡ぐことができる作者なので(実際には難しいことです)、ぜひ次の作品を期待しています。
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