【一言居士】―2021年7月― 本当の痛手
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男は橋の下で女を待っている。しかし女は来ない。潮が徐々に満ちて男の沓(くつ)、両脛、腹が浸る。それでも男は女を待ち続ける。その日の夜更け、海が男の死体を運んでいくのだった。芥川龍之介作『尾生の信』である。能天気な夢を抱き続けることは時に、身を滅ぼす▼先月13日(日本時間)、先進7カ国首脳会議(G7サミット)が開かれ、東京オリンピック・パラリンピックの開催が国際公約となった。一方、新型コロナウイルス感染症は猛威を振るい、今なお1県に緊急事態宣言、10県にまん延防止等措置が発令されている▼東京オリンピックは日本の信頼や経済効果など、多くを背負う。しかし、日本がそれらを得られるのは安全に大会が行われたときだ。今までの感染拡大を踏まえると、安全な大会が開催できるかは疑問だ。大会を挙行しないときの損失と挙行したときの危険、本当に痛手が大きいのはどちらなのか考慮したい▼我々はオリンピックという魅力にひかれ、命と信頼の消えるリスクが見えていないのではないか。東京オリンピックの開会式は23日。冷静に話し合う時間は、残されていない。(文責・増田)