【イベント】模擬裁判 萩ホールにて公演 テーマは精神障害者の雇用
本学法学部模擬裁判実行委員会による第71回模擬裁判公演「うきぐも 障害者雇用をめぐって」が11月26日、27日に東北大学百周年記念会館(川内萩ホール)(川内南キャンパス)で行われた。
今回の舞台は、障害者雇用枠でとある企業に採用された、精神障害者の自殺をめぐる民事裁判。前職の業務過多によってうつ病を発症し退職した主人公の須藤遥は自宅にて静養するが、「退屈で仕方がない、世の中の役に立ちたい」という意思のもと、再就職を志す。家族はうつ病がまだ直っていない事を理由に反対するも、障害者に配慮した対応がとられる障害者雇用枠での就職を提案し、説得に成功した。
順調に勤務する遥は、みんなの役に立ちたい、との気持ちから業務量を増やすことを要求するが、それは簡単なことではなく、上司からは遥の雇用理由が障害者の雇用率を上げるためであると聞かされるなど、すれ違いが生じてしまう。この出来事をきっかけに出社頻度が徐々に低くなり、最終的に遥は自ら命を絶った。これを受け、遙の両親は会社を相手取り訴訟を起こした。
須藤両親が起こした訴訟は会社側に自殺の原因があるとしたもの。争点となったのは、①雇用率達成のために雇用したという上司の発言の違法性、②十分な量の業務量を与えなかったことおよびその理由を説明しなかったことの違法性、③ ①②と遥の自死との因果関係の有無―の3点。
裁判の結果、原告の訴えは退けられた。①については、上司の発言が精神的苦痛を与えたものの上司側に悪意はなかった、との結論が出た。②については、十分に仕事が見つかっていなかったが上司は与えられる仕事を探していた、また理由を伝える期限は特に設けられていなかった。③については、上司の発言や業務量についての話し合いと、自死の時期とが離れていた、との結論が出された。原告側は、自分たちにも遥にしてあげられていないことがあった、との考えからこの判決を受け入れる。裁判後には原告と被告が話し合い、控訴しないことを含め、遥のように苦しむ人が生まれないようにすることを誓った。
今回の公演に際して、演出を担当した小渕倖太さん(法・3)は、一般の人にも法律を身近に感じてもらいたいと話す。
「障害を理由に活躍できない人たちがいる現状、障害者もその周りの人も、本当に働きやすい世の中にするために障害者雇用枠というものがあることを知りました。運用していく中で生じる問題点を市民の皆様に伝えていくことに大きな意義があると考えます」
同委員会は法学部生ならではの視点、すなわち法律に詳しいながらも運用には携わらない立場を活かしている。ただ事件や裁判風景を演劇にするのではなく、裁判が身近に起こりうるということを重視して劇を制作している。そのために法廷シーンだけでなく、その前後の過程を演じたり、実際の判例を参考にしたり、現場で活躍する方々に話を聞いたりするなど、劇にリアリティを持たせている。
今回、障害者の中でも精神障害者を取り上げた理由について 渉外を担当した中島啓佑さん(法・3)は次のように語る。「精神障害者の方々は一見周りの人と変わらないような人たちであり、目に見える形での環境改善が難しい場合が多いです。そのため、彼らにどう向き合って行けばいいかを描くことには意義があると感じ、このテーマにすることを決定しました。精神障害者への配慮にはコミュニケーションの問題が占める部分が大きく、その裁量は雇用主側にあります。そのため、障害者側が本当に望む態度がとられているとは限りません。綿密なコミュニケーションをとることで互いの理想の形を模索する必要があると感じました」
公演後関係者コメント
〇判事、上司役 中村尚人さん(法・1)
私は1年生ということもあり、法に関しての知識はまだまだ浅いのですが、公演を通して法の知識を得るとともに、裁判がどのように執り行われるのかということが学べ、非常に有意義な経験ができました。
〇演出 真下晴陽さん(法・3)
今年は、毎年取り上げている刑事裁判ではなく民事裁判を取り上げました。センシティブな話題であることに加え、慣れない形式を選んだため、判例の読み込みや取材など題材の研究に力を入れました。
〇演出 小渕倖太(法・3)
劇を作ってみて、現場の実態が法の制定目的とはかけ離れたものになっている場合もあると感じました。今回の場合、法定雇用率は障害者の社会参画支援のためのものでしたが、会社側の目的が障害者の雇用率達成になる、といった手段と目的の逆転が起こっていました。法を運用する一人一人が配慮の心を持つことが重要だと感じました。