【書評】『三太郎の日記』 阿部次郎 著
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『三太郎の日記』は1914年に哲学者である阿部次郎(1883~1959)によって「第一」が発表され、その後「第二」「第三」と続いた作品。大正・昭和期においては青春のバイブルとして、学生必読の書であった。
本作では、作者をモデルとした主人公・青田三太郎が明治44年(1911年)以降につづった日記が記されている。ある日、三太郎は引き出しの中に眠らせていた日記帳を3年ぶりに開き、自身の半生や心の世界について記述し始める。三太郎は自身の暗く至らない側面を意識しつつ、人生、生死、思想、自己、芸術などについて思索し、書き留めていく。本作には作者が言うところの「矛盾と暗黒との観照」、その中で生まれる自己追求の姿勢が詰まっている。
「あわわの三太郎」という言葉がある。「あわわ」をする幼児と同程度の知能の持ち主という意味で、本作主人公の名である青田三太郎の由来となった。人生において行き詰まりを感じる場面は、誰にとっても多々ある。このとき、何度思案しても良い答えを得られず、堂々巡りの日々を過ごすことは多く、自身の未熟さに辟易とすることとなるだろう。そんな状況でも、考えることを止めるべきではない。作者いわく、本作は「暗黒にあって光明を求める者の叫び」である。答えがないことばかりだからこそ、自身の生活、人生を愛する心を持ってもがき続けることに意味がある。