【研究】震災遺骨の身元特定に協力 歯学研究科鈴木敏彦准教授
宮城県警は10月9日、2023年に宮城県南三陸町で発見された人骨について、東日本大震災の津波により行方不明になっていた岩手県山田町の女児、山根捺星
骨から身元を特定する際には、いくつかの方法が併用される。骨に残る常染色体から塩基配列パターンを調べる方法が最も個人識別力が高いが、骨の保存状態によっては分析不可能な場合も多い。また性別を決定する性染色体のうち男性だけが持つY染色体を解析し、父系との血縁関係を明らかにするY―STR法もある。しかしY―STR法は女性の骨から情報を得られない。
細胞内にあるミトコンドリアのDNAを解析する方法もある。ミトコンドリアのDNAは母親のものだけが子どもに受け継がれるため、子どもの性別にかかわらず母親との血縁関係を明らかにできる。しかしこの方法にも、子どもの性別を明らかにできないという欠点がある。
そこで今回用いられたのがプロテオーム解析という手法だ。プロテオーム解析とは遺伝子に由来するタンパク質を解析する方法のことで、歯のエナメル質中に存在するアメロゲニンというタンパク質に注目する。アメロゲニンには性染色体のX染色体から作られるものとY染色体から作られるものがあり、歯のエナメル質を解析してY染色体に由来するアメロゲニンを発見できれば、骨が男性のものであると確定できる。またY染色体由来のアメロゲニンが見つからない場合には、骨が女性のものである可能性が高いといえる。
警察から身元の特定を依頼された鈴木准教授は初めに骨全体の形から6歳くらいの子どもの骨であると鑑定したが、この時点で遺体の性別は分からなかった。遺骨が南三陸町で発見されたことから、宮城県警は、この付近の行方不明者の遺骨と考えて身元の確認作業を始めたが、候補者の特定には至らなかった。
しかし、遺骨の情報が岩手県で行方不明になっている女児と似ている、と岩手県警から連絡があったことで、身元特定は大きく前進する。遺骨のミトコンドリアDNA解析を行ったところ、捺星さんの母親と家族関係にあることが推定された。
より正確な証拠に基づいた身元特定を行うため、鈴木准教授は県警の担当者にプロテオーム解析を提案し、実際にプロテオーム解析を実施した総合研究大学院大(神奈川県葉山町)の研究者との橋渡しを担った。分析の結果女性の骨であることが分かり、遺骨の返還へとこぎ着けた。
プロテオーム解析が県内で行われたのは、今回が初めてだった。しかしプロテオーム解析は数千年前の人骨の性別すら特定できる解析方法であり、14年前の人骨を解析するにあたって難しいことはなかったという。「震災という、忘れてはならないイベントに関係するためウェートは高かったものの、身元不明の方の骨の解析はどんな事例でも等しく大切。その仕事の一つとして、淡々と解析に取り組んだ」と鈴木准教授は語る。
鈴木准教授は、プロテオーム解析など新たな手法を用いて遺骨から得られる情報を増やすことも大切とした上で「現代人の身元鑑定では間違いが絶対に許されない。鑑定の精度、正確さが一層求められている」と今後の身元特定における展望を語った。