【研究】信号復元技術の精度に警鐘 人見将特任助教
本学大学院情報科学研究科の人見将特任助教と大関真之教授らの研究グループは、最大エントロピー法(MEM)の性能限界を明らかにしたと昨年10月23日に発表した。
MEMとは、欠損やノイズによって観測データが限られている場合に、その観測情報と事前の仮定(デフォルトモデル)を基に、できるだけ偏りのない推定を行う手法を指す。長年、広範な分野で標準的に使用されてきた実績がある。一方で、MEMはデフォルトモデルの設定次第では、推定がうまくいかないケースがあることも研究者の間では経験的に知られていた。しかし、どのような条件で不具合が生じるのか、統一的な議論は行われていなかった。
そこで人見特任助教らは、統計物理学の手法であるレプリカ法(注1)を用いた解析を行い、特定のモデルおよび前提条件においてデフォルトモデルが不適切な性質を有する場合、MEMによる推定精度が著しく低下することを理論的に示した。
本研究は、レプリカ法による解析と数値計算の二つの手法を用いて行われた。
レプリカ法による解析では、 統計物理学における自由エネルギーの鞍点(注2)を探索することで、推定誤差などの典型的な振る舞いを理論的に導出した。
数値計算による解析では、具体的な問題に対して実際にMEMのアルゴリズムを適用し性能を検証した。
MEMは広範な分野で利用されているため、多くの分野が影響を受ける恐れがある。例えば、物性物理学の結晶構造解析などにおいて、不正確な推定が行われている可能性がある。また、天文学におけるブラックホールの観測画像などのノイズや欠損を含むデータの修復において、本来とは異なる像を推定してしまうリスクがある。
人見特任助教は、2024年の春に本学に着任し、初めてレプリカ法という計算手法を知ったという。「この計算手法が使えそうな面白い練習問題として最大エントロピー法に着目し、その解析が本研究成果につながった。今後は、機械学習や情報科学の発展に伴って生じる問題に対し、レプリカ法などのアプローチを応用していく方針である」と展望を語った。
(注1)レプリカ法 統計物理学において、不規則系の平均自由エネルギーなどを解析的に計算するための数学的手法
(注2)鞍点 多変数関数の変域の中で、ある方向で見れば極大値だが別の方向で見れば極小値となる点
