【特集・戦争と大學 第1回】アーカイブズの存在 社会の根幹を為す ~本学史料館 加藤諭 准教授~
何十年前の史料を現代において読み解くことができる背景には、そうした記録を司る「アーカイブズ」の存在がある。本学では、国内の大学では初となる「大学アーカイブズ」を標榜する施設として、東北大学記念資料室(Tohoku University Archives)が1963年に設置された。同資料室は2000年改組し、現在は「東北大学史料館」となっている。史料館をはじめとする「アーカイブズ」について、アーカイブズ学を専門とする加藤諭准教授に尋ねた。
―アーカイブズとは
組織がどのように成り立ってきたかという記録を司る機関のことです。組織の名称を冠したものとしては、「自治体アーカイブズ」や「ナショナルアーカイブズ」などがあります。その一つが「大学アーカイブズ」です。同じアーカイブズでも、それぞれ少しずつ役割や何を残すかといったポイントが異なっています。
―アーカイブズ学ではどのような研究が
研究対象の一つとしては、定められている保存期間を過ぎた文書等に関して、大学や組織にとって重要な文書ゆえに廃棄せず取っておく際に、その選別を恣意的ではなく評価選別のモデルをどのように設定すべきかを考えることが挙げられます。また、組織にとって何を残すべきか判断する専門職としては「アーキビスト」があり、司書・学芸員に並ぶ専門家として位置づけられています。
―アーカイブズの役割は
アーカイブズの存在によって、組織のアイデンティティを確認したり、組織の説明責任を果たしたりすることが可能になります。ひいてはそれらが社会の共有の知や情報になっていくでしょう。
―本学のアーカイブズの成立過程は
『東北大学五十年史』の編さん後、収集した史料を保存する場所として、海外の大学アーカイブズを参考にして記念資料室が作られました。日本初の大学アーカイブズを作った組織という意味で、東北大学は「記録を大事にする大学」だと感じています。
―本学の文書管理は
2011年の公文書管理法に基づき、保存期間と期限後に史料館へ移管する基準などが全学の法人文書管理規程で定められています。同法律が施行されるまでは、本学独自に保存する決まりを定めていました。
―日本での公文書管理の意識は
日本は21世紀になるまで公文書管理に関する法律が無く、この分野では後進国であると思います。アーカイブズは、国や組織のアイデンティティが強く求められるところで重要視される傾向にあります。日本では近代以降、アーカイブズに関する導入が進まなかったことが、他の先進国に比べ遅れをとっている要因だと感じています。
近年の改ざん問題が、公文書管理の考えは日本社会に根付いていないこと、公文書管理が民主主義社会の根幹であることを知らしめています。
記録やアーカイブズに関して基礎的な感覚を有している人が今後増えていき、アーカイブズの考え方が日本社会に根付いていくことでより良い社会となるよう、アーキビスト養成コースの開設をはじめ、取り組んで行こうと考えています。
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