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【特集・戦争と大學 第1回】書評『学生を戦地に送るには 田辺元「悪魔の京大講義」を読む』

エリートの扇動 学生はなぜ戦地に


 「戦争だから国のために死んでくれ」。戦後の私たちは、国家のために自分や大切な人の命を投げ出す感覚とは遠いところに生きている。だが戦時にはそんな思想が確かにあった。本書はかつて東北帝大でも教鞭をとった哲学者・田辺元の著書『歴史的現実』を読み解く、著者の講座合宿を書き起こした一冊だ。田辺はいかにして戦時に数多くの学生を感化し、納得すらさせて戦地へと送り込んだのか。その「魅力」と「悪意」を解釈する。




『学生を戦地に送るには 

田辺元「悪魔の京大講義」を読む』

佐藤優



 『歴史的現実』は1940年発行、田辺が京都帝大で行った全6回の講義をまとめた本だ。田辺は時間感覚や人間の所属の関係性から、歴史を背負う必要性を繰り返し主張する。過去・現在・未来は連続していて切り離せない。自分が生まれた原点も、何かを始める原点も、歴史と無関係に設定することはできない。しかし過去による制約を意識して現在のあり方を変えれば、未来は自由に作っていけると希望を語ってもいる。



 続けて過去・現在・未来の時間感覚と、個人・種族・人類の人の関係性とを対応させて論理を展開する。著者が言うところの全体主義で、種が個体に先行し優先される考え方だ。戦時を前提に、社会で高い価値を持つ個人がどういった人間であるかを定義づけているといっても過言ではない。このあたりからだんだんと、国家が個人に押し付けるのではなく、個人が自発的に国家に協力し、その動きが拡大することを美徳とする主張へとつながっていく。「(指導者は)個人が国家に協力しようとする意志をもって自発的に働いて居ることを見逃すことは出来ない」。著者の指摘では「ウクライナ東部にロシアの正規兵は一人もおらず、いるのはボランティアだけ」というプーチン大統領の発言と同じレトリックだという(講座は2015年実施)。



 俯瞰で見れば論理をひねってごまかしていると理解はできる。しかし私たちが平時になければ、果たして冷静な判断を下せるか。頼らず流されず、自分自身で考えることの本質を問う問題作。




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