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【特集・戦争と大學 第3回】書評 太宰治著 『惜別』

 戦争や革命など、あらゆる争いは社会の結束を促すともに、集団内で攻撃されうる少数派を生み出すものだ。かつて時代の荒波に揉まれる友人を見つめた老医師の手記がそれを教えてくれる。



 太宰治著『惜別』では、二次大戦末期に生きる主人公「私」が、東北帝大医学部の前身である仙台医専での友人・周樹人との交友関係を手記に残す。医専卒業後の周は、小説家の魯迅として活躍する。



太宰治『惜別』



 明治37年、「私」と周は松島での旅行中に出会った。自身の田舎訛りを気にして周囲の人となじめず、あまり授業に出席しない「私」は、孤独ながらも高い理想をもつ周と、松島の風景や互いの境遇・価値観について語り合う中で意気投合する。周はたびたび解剖学を教える藤野先生の名前を出し、先生の人柄や授業を絶賛した。「私」は藤野先生の授業を真面目に受けるようになり、先生の研究室を訪問して周について相談するようにもなった。



 しかし、当時は日露戦争の真っただ中。異国人である周への風当たりは弱くない。戦時下に生きる「私」は、同じ教室で学ぶ日本人学生や、故国の革命を夢見る清国留学生から攻撃され、次第に変化していく周の様子を目の当たりにする。



 『惜別』は1945年9月に初版が発行された。執筆期間中は終戦間近。戦意高揚のために厳しい言論統制が行われた時代だ。戦中の太宰は、表面的には時局に従いつつ、多くの制限がある中で自分が表現できることは何かを模索した。



 「私」と周、藤野先生の温かい関係に第三者が水を差す。他人への偏見や不信感は、いつの時代にもあるものだ。他人の行動が友情を傷付けるさまはまさに痛切である。



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